このほど初めて、ヒトの精子の動く軌跡が3Dで捉えられ、精子の中にはらせん状の軌道をとるものや、きわめて活発に泳ぐものがあることが分かったそうです。
センサー技術で精子の動きを3D追跡
ヒトの精子は、微生物と比べてもさらに小さくて動きが速く、研究が難しいことで知られています。それでも今回、アイドハン・オズジャン(Aydogan Ozcan)氏が率いるチームは、他のもっと簡単な対象には目もくれず、精子研究のためにツールの改善を重ねました。その理由は「精子は生命にまつわる微小組織の中でも特に重要なものの1つ」だからだそうです。
オズジャン氏らの研究は、精子バンクから入手した精子をシリコンセンサーチップに載せ、精子が動いているところに赤色および青色のLEDライトを別々の方向から照射するというもの。研究の全過程では、合わせて2万4000以上の精子の動きを観察したそうです。個々の精子から赤と青の2つの影ができ、その軌跡がチップに記録され、その後、コンピュータープログラムを使ってそれぞれの影のデータを組み合わせ、精子の曲がりくねった軌跡を再現しました。
従来型の光学顕微鏡では今でも「ごく限られた数の精子しか(3Dでは)観察できない」ようですが、今回のセンサー技術ならば「1回の実験につき、1500以上の精子を3Dで追跡できる」ということです。
異なる精子の泳ぎ方
これらのデータから、精子の泳ぎ方には明確に異なるいくつかのパターンがあることが分かったそうですが、大多数は「典型的」な、おおむね直線上の軌道をとるということです。しかし、一部の精子は「らせん状」に動くことが確認されたそうです。そして、また別のグループは「きわめて活発」と命名されました。このグループの精子は頻繁に方向を変え、それまでと正反対の向きに動き出すこともあるということです。
精子の健康状態と泳ぎ方の相関関係の今後の研究に期待
オズジャン氏によると、精子の健康状態と泳ぎ方のパターンには、今のところ相関関係は確認できていないが、今回の画像化技術によって、将来的にはそうした研究にも道が開けるかもしれないとしています。
男性諸氏にとって、自分の“精子が元気か”どうかをより正確に把握できる可能性がもたらされるのは言うまでもありません。オズジャン氏は「この技術か、それを応用したものを、精子の選別や数量化に使うことも可能だろう」と語っています。そして今回の技術は、男性の生殖能力検査の向上につながるとともに、同程度の大きさの微生物の行動の研究などにも利用できるだろうと研究チームは言っています。
精子の軌跡の3D測定についての今回の論文は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌の9月17日号に掲載されているとのことです。