手術台EDと関係の深い前立腺癌ですが、最近の研究によって、治療法ごとにED発症率が異なる傾向があることや、外科手術の場合、勃起神経の処理がその後の性機能に大きく関わっていることが分かってきました。

治療法によって変わるEDリスク
アメリカ、ボストンにある医療期間の研究者Martin G. Sanda博士は、「前立腺癌の早期治療は、存命率が高いため、治療後の副作用発生率を知ることが重要」との考え方から、簡便な問診表形式のアンケート調査を行って統計をとり、米国医師会誌に発表したそうです。調査内容は、年齢、癌の進行度、前立腺特異抗原と呼ばれる、血液中の含有量で前立腺癌の可能性を判断できるPSA(腫瘍マーカー検査)値、体重(体格)の指標とされるBMI値、人種や民族、現在の性機能の程度、EDになった経験もしくは治療歴などで、何らかの前立腺癌治療を受けた全被験者を、治療後2年間追跡したそうです。

治療法ごとに違うEDの発症率
その結果、治療によってEDリスクはさまざまであり、例えば治療前にEDのなかった男性が前立腺の外科的切除を受けた場合の2年以内のED発症率は約60%、外部放射線照射では40%強、密封小線源療法(前立腺に放射性シードを埋め込む治療)では40%未満であったということです。また、PSA値が高い場合は、EDリスクが増大する傾向にあったことが明らかになったとのこと。さらに、年齢、人種、BMI、性機能やED歴なども影響することがわかったそうです。

外科手術においては勃起神経が重要
上述の調査においては、ED発症率が60%とされた外科手術ですが、この治療法には種類があり、勃起神経を温存するか、他の部位の自家神経を勃起神経として移植することで、性機能を取り戻せる可能性が十分あることも分かってきています。日本性機能学会の第22回学術総会においても、この点に関する報告がなされました。勃起神経を温存する外科手術を行ったケース(40例を約10年にわたり調査)では、半月から18ヶ月以内に42.9%が勃起機能を回復したそうです。また、自家神経移植手術のケース(43例を同期間調査)では、なんと73.2%が1ヶ月から24ヶ月の間に勃起機能を回復したということです。

前立腺癌の手術後にED治療薬
上記報告は、前立腺癌の外科手術を行えば、必ずしも6割の人がEDになるわけではないということを示した、興味深い臨床研究だといえるでしょう。また、神経移植手術のグループの勃起機能回復が遅い傾向にあったのは、移植した神経が機能するまでに時間がかかるためと考えられる、と指摘されています。そして、ED治療薬の服用をされた患者さんもおり、神経温存グループでは25%、神経移植グループでは32.6%ほどいたことも報告されています。このことは、前立腺癌の外科手術を受けてもED治療薬を服用でき、なおかつ性機能を回復できる場合があるということの証と言えるのではないでしょうか。